今回は以前投稿した
の「融資編」です。
融資業務は銀行の本業です。
銀行の融資といえばクリーンで格式高いイメージもあろうかと思いますが
実情は果たして。
新入行員の方もぜひ参考にしてみてください。
※私は地方銀行出身ですので、多少参考にならない部分もあります。
貸してくださいではなくて「借りてください」
通常、融資といえばドラマなんかでよく見かける、
社長「お願いです!あと1,000万!あと1,000万あればなんとか首が繋がるんです!」
支店長「そうは言っても社長、もう当行も精一杯なんですよ」
社長「支店長さん、この通り!この通りですわ!」
金に困っている社長と、対応に困る支店長。
融資とはいえばこういうイメージではないでしょうか。
お金に困って借りるパターンもあれば
大きな買い物をするので借りる、というパターンもあります。
でも実際の銀行融資は、こういったものだけではありません。
それが「お願い融資」「打ち返し融資」と呼ばれるものです。
「お願い融資」
借りる必要のない会社に対し、短い期間だけ資金を借りてもらい、営業成績を伸ばす方法
「打ち返し融資」
既に借りてもらっている会社に対し、減った分をもう一度借りてもらう方法
銀行融資の半分以上は、この2つと思っていいでしょう。
自分はそうでしたね。
なぜなら融資というのは「困っている人」が現れないとチャンスが来ませんよね。
でも「困っている人」なんてそんなにいないんです。
困っている人は既にどこかで借入していたり
経営がやばすぎて貸せないレベルだったり。
ノルマ営業する中、こんな顧客を探していても間に合いません。
そもそも、困っている顧客への融資となると
貸す理屈・返してもらえる理屈を組み立てないといけないので
(語弊がありますが)手間がかかります。
そこで(ここも語弊があります笑)狙い目なのが
優良企業にいらない金を借りてもらうこと。
こうすれば、いい先なので書類をつくるのも簡単。返してもらえるから安心。
ところがこの「お願い融資」「打ち返し融資」。
私が銀行を辞める理由となった一つでもあるのですが
本当に「何やってるんだろう」感がすごいんですね。
なぜなら顧客から「貸してください!」ではなく
銀行員側が「借りてください!!!」って言うんですからね。
おかしいと思いません?
コンビニに行ったら「パンが売れなくて困ってるんです!買ってください!」って店員が言ってくるようなもん。
要はいらないものを売りつける仕事なんです。
それは当然、支店の収益を達成するため。顧客第一ではありません。
朝礼なんかで「我々職員は〜〜〜」「銀行は地域に根差し〜〜」「地場の活性化のために〜〜」
とか言いますが
実態はこんなもの。
お願い融資なんて、社長の時間と会社のお金を奪う悪行でしかないです。
こんなことをしておきながら、本当に困っている顧客の融資をするときに限って
「本当に必要なのか?どうやって返してもらうのか?返してもらう理屈は?」
なんてことを本部は聞いてくる。
いやいや
「本当に必要な会社には貸さないで、必要のない会社には貸そうとするくせに、何言ってんだ」と。
金利戦争
銀行融資をする際には
事前に社長と条件を決めますが
中でも最も重要なポイントが「金利」。
金利は純粋な「負担」ですので、低くなればなるほど負担が軽くなる。
社長の関心の中心になるわけです。
さてこの金利。どう決めるかというと
今貸している他の融資の金利
他の銀行で借りている融資の金利
その地域でなんとなく水準となっている金利
融資の内容
銀行と顧客との力関係
この辺りで決定することが多い。
その中でも「他の銀行」という存在が非常に厄介なんです。
融資の相談があった場合、大抵は他の銀行にも相談しているか
銀行側が融資の匂いを嗅ぎつけていることが多く
最終的に条件で勝負になります。
条件といってもほとんど「金利」です。
要は低い金利を出した銀行の勝ち。
つまり、せっかく融資の案件を捕まえて、書類を作って、条件を提示しても
最後の最後、金利で0.1%でも負けていたら融資はできません。
なので、書類作りの際には低い金利を前提で作成し、本部に協議することになります。
金利は銀行の収益部分。ここを下げて融資するということは
銀行の収益を減らしてでも金を貸す、ということで
本部は「なんで金利を下げるのか」「下げる代わりに何か得るものがあるのか」
など、融資をする理由を求めてきます。
理由なんてないですよね。他行が低い金利を出してきたから、こっちも下げる。
下げなかったら融資は取られてしまい、収益そのものもない。
この矛盾に自分は苦痛を感じ、銀行に面白みを見出せなくなってしまいました。
もちろん、金利を高く取れるように、普段から仲良くする
ということも方法のひとつですが
そういうことが通用する顧客ばかりではない。
金利は金利だ、という顧客を担当したなら
意味のない資料作り、意味のない戦いは避けられません。
融資は金を貸すことではなく、資料をかき集めること
上で散々「資料作り」と言ってきましたが
資料作りとは「稟議書」のことです。
この顧客はこういう理由でお金が必要で
こうやって返してもらって
万が一返せなくなった時はこのように回収するんです
この融資をすることでこんないいことがあります
というようなことなんかを書いて、支店長や本部にOKをもらう作業。
担当の文章力、交渉力、分析力、資料取集力が求められる部分です。
相談〜融資までを100とすると、70は資料作りです。
つまり、銀行生活の70%は資料作りと言い換えてもいい(極端ですが)。
一つの資料を、担当が作り、上司がチェックし、指摘が入り、担当が修正し、再度上司が確認し、支店長がみて、支店長が指摘し、担当と上司で相談し、もう一度修正し、上司が確認し、支店長がOkを出し、本部に行き、本部に小言を言われ、細く資料を作り、本部が本部長に上申しOKをもらう。
このような作業がたくさん入り、顧客に「提案」できるようになります。
これで他行に条件で負けたら、融資できないんですよ?
なんなんですかね、この仕事。
なら普段訪問していた自分はなんのための存在?
これはもちろん他行の担当者にも言えることです。
バイクで街を走ってたら、同い年くらいの他行外務員とすれ違う時があります。
「お互い何やってんでしょうね笑」
って感じで目が合います(俺だけかもしれませんが笑)
社長がムチャ振りすぎる
さあここまでの苦労を、大抵の社長は知ってか知らずか。
社長のムチャ振りも入ってきます。
例えば稟議書がほぼ完成ってときに社長から電話。
「金利なんだけど、あと0.1%なんとかならない?」
「2,000万の機械買うって言ったけど、もうちょっといいのが出たから2,500万のにしようと思う」
「500万を個人で、700万を法人で買うつもりだったけど、やっぱり法人で1,200万にしようと思う」
など。
数字を変えるだけだと思っているとしか思えないムチャ振りの数々。
スーパーでお菓子買うんじゃないんですから
商品を交換するってわけにはいきません。
こういう苦労を社長は絶対知りません。なのでこんなことが言えるんですね。
でも、それだけ面倒くさい業界だってことなんです。
一般の人からみたら「数字が変わっただけでしょ?」ってことが
銀行では「全く別の案件」として考える。
それだけギリギリの際どい審査をしてるってことです。
ちょっとでも数字が違っていたら全部を修正して考え直す。
この辺の顧客と銀行の温度差も、仕事する上でかなりストレスになる部分ですね。
通して当たり前、見送ったら悪人
融資相談をする人は、借りることができると思い込んでいる人が多いです。
事実、私も銀行員生活は10年近いですが、断った経験は一度もないです。
個人向けの融資なら、保証会社が「×」といえばダメなので断ったこともありますが。
それだけ、基本的には融資は引き受けているとみて良いでしょう。
相談を受けている段階で、担当者が判断し断っている、というパターンもありますが
審査に上がった融資案件が、全くのお断りということは少ないです。
先ほど述べたとおり、銀行が多数ひしめき合う中
捕まえた案件を逃すわけには行かない。銀行の飯の種でもあるわけですから。
そこは審査部も理解しているので、文句は言いつつも通す方法を考えてくれている。
顧客も断られる経験が少ないということになりますし
また銀行なんていくらでもあるので、断られたら他の銀行で相談できます。
それに一度断ってしまうと、次の相談は多分ない。
顧客も銀行もそのことがわかっているので、案件があれば通す前提で受けます。
つまり、通して当たり前、という認識。
ここでもしお断りしなければならないようなことあったものなら
担当者のあなたは顧客から
「頼りにしてたのに」
「残念」
「○銀行さんは私らみたいなとこには貸してくれないんだねえ」
とまるで悪人です。
できるかできないかを判断するために審査部があるんです。
貸さないことが悪なら、審査する必要がない。
もちろん、断られたことでプライドが傷ついたから出たセリフかもしれません。
ですが本来、お金の貸し借りは対等な立場で行うものです。
借りる側も貸す側もリスクがありますし、メリットもある。
つまり、融資は綺麗事でなく、嫌味なんかもいわれながらしなきゃならない仕事ってこと。
以上、銀行融資の実態について少し触れてみました。
融資業務は割り切ってやれば簡単です。
定期的に訪問し、雑談の中からお金に困ってそうかどうかを聞き取り
必要な書類をもらって稟議書を作り契約する。
困ってない先は融資の減っている先、お願いが通用する先に
良い条件の融資を提案し、資料をあつめてササッと契約。
この繰り返しです。
ですが、この業務に面白みを見出せるかどうか
あなたが見出そうとするかどうかで
銀行にずっと居続けられるかどうかが決まると思います。
参考にしてみてください。
それでは。